エッセイ

半分はんぶん「第2回:決意」


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半分はんぶん「第1回:~はじめに~」 若い頃にお金に苦労したせいか、35歳までの僕は仕事に猛進していた。 仕事仕事、休みの日にも仕事の予習。電話がくれば即出勤...

3年前の決断

「パパ遠くに行っちゃうの?いつ帰ってくるの?何回帰ってくるの?」

小学3年生の娘が目を真っ赤にしながら僕にきいてくる。

彼女の肌ツヤのよい頬から、涙が伝い落ちるたびに、僕の心が揺れ動いている。

僕はほんのすこし目をつむりながら、愛娘が落ち着くのを待っていた。

数日前に僕はある決断をしていた。

それは「単身赴任」の選択である。

この年、僕は転職することを決めていた。

いくつかの会社からオファーをいただいていたのだが、建設業界、特に中小企業は、都合良く「仁義」という言葉を振りかざしてくる。

直接取引がなくても少しでも仕事を一緒にしたことのある会社には行くのは、転職を妨害される恐れのある危険な選択だったし、自分のことをまったく知らない環境で挑戦してみるのも悪くないと考えていた。

そんな中、僕はある会社をみつけ、履歴書と職務経歴書を先方に送った。

もちろん、メールと電話でのフォローも忘れてはいない。

一次試験と二次試験を通過し、先方からの評価も上々で会社から提示された年収も僕が望んだもの、そのものだった。

ただ、一つ問題があった。

それは僕の住む地域の支社には、僕が求める事業部がないということだ。

会社からは、僕に選択を委ねられた。

別の部署、別の業務内容で良ければ地元に住み、支社で仕事をすることができる。

一方で、自分の求める仕事をするのであれば、単身赴任で別の支社に行くことになる。

子供たちは8歳と6歳。まだ幼い。
本当はまだまだ一緒にいたいけど、僕は今回の転職を失敗するわけにはいかない。

そして、、、、、、、、

自分の能力を最大限に活かそうとした僕は、単身赴任をして得意分野を生かすべきだと考えた。

会社が自分を高く評価すれば収入も多くなり、結果として家族の生活を豊かにすることができる。

僕は自分が学生の頃に進学をすることができなかった。

理由の一つに家の経済的なものがあり、3人兄弟の末っ子の僕にはなんの権限もなかったし、当時の状況では特別不幸なエピソードではないと思っていた。

まぁ、、、やりたいことがなにも無ければの話だが。

自分なりに後悔があった。今が不満なのではなく、一言でいえば「選択肢がない後悔だ」。

僕は自分の子供に同じ思いをさせたくない気持ちがあった。

子供が進学するかどうかは子供の問題である。

でも、僕は彼女達に選択肢を与えることのできる親でありたい。

すべてを与えるのではない。これから、いろんなことに興味を持つであろう彼女達に、お金を理由に選ぶこと、チャレンジすることを諦めてほしくないんだ。

だから、僕は父親としてお金を稼いでいくことは大切だと思っている。

考えた一つの結論が、転職であり単身赴任だった。

妻からの条件

妻はしっかり者でありながらもおっとりとした性格だ。

僕が今の仕事である電気工事士として成功できているのも、彼女にオームの法則を教えてもらい、年収が低い頃から支えてきてくれたことが大きな要因である。

妻に転職の話をしたとき、彼女は一切の否定をしなかった。

自分のやりたいことや考え方、方針を理解して支えてくれる妻と出会えたことは本当に幸運だったと思っている。

この人生最大の幸運の座は、これから先も揺らぐ予定はない。

そんな妻から、たった一つ条件をだされた。

「子供達には、自分の口からしっかりと説明をすること」

子供は子供扱いしてはいけない。一人の人として向き合わなければいけない。

自分の親が転職をするのはいい。

でも、一緒に暮らせなくなるのは大きな変化になるでしょう。

だから、自分の口からしっかりと説明するべきだと言われた。

数日後の夕食の後、僕はリビングで、すももとりんごに話かけた。

長女のすももは小学3年生。性格が僕に似ている。

好奇心があり、幼稚園のころに「大きくなったらパパのお嫁さんになる」と言われてから、僕はすももの虜になっている。

次女のりんごは小学1年生になったばかり。とにかくお菓子に目がない。

僕はいつも愛嬌をこめて、あえて「りんごちゃん」と呼んでいる。

りんごちゃんのそばには、いつもお菓子とジュースの気配が漂っている。

僕は、りんごちゃんがパントリーからお菓子をとってくるまで待ってから話をはじめた。

我慢

「パパね、今度働く場所を変えるんだ」

「うんうん、そうなんだね」

いつも元気で好奇心旺盛なすももは、僕の話に耳を傾けてくれる。

りんごちゃんはテーブルのお菓子をみつめ、お菓子を食べても怒られないタイミングを見計らっている。

「それでね、パパのやりたい仕事をやるためには少しだけ遠くの県に行かなければいけないんだ。
毎回じゃないけど、休みの日とか用事があるときは返ってくるよ」

「ん?」

すももは何の話をしているのか理解できていないようだった。

突如、一緒に暮らしている父親が別々に暮らす話をしはじめたのだ。
理解できなくて当然だろう。

「パパね、お仕事の都合で別々に暮らすことになるんだよ」

「・・・・・・・・・・・そんなのヤダよ~~」

「ヤダ~~あ~ん」

「パパ遠くに行っちゃうの?いつ帰ってくるの?何回帰ってくるの?」

お菓子の袋をあけていたりんごちゃんの手が、すももの泣く声で止まった。

気持ちが揺らぐ。

本当にこの選択がいいのだろうか?

僕の自己満足なのではないだろうか?

愛娘が落ち着くのを待っている間に、考えてきた結論に自信がもてなくなってしまう。

良い結果にできるかどうかは、自分次第である。しかし、僕には良い結果にできる確証はない。

「パパも考えたんだ。家族のことやお金のこと。それで、こうするのが一番いいと思ったんだよ」
「わかってほしいんだ」

良い結果にできる確証はないが、行動をおこさなければ今のままなんだ。

僕は泣きじゃくる娘に何度も説明した。

「(シクシク)・・・・・・・お仕事だもんね、わかったよ」

口では「わかったよ」と言ってくれたが、彼女が我慢していることは、僕もそばで見ていた妻も痛いほど伝わってきた。

話を聞いていただけのりんごちゃんだったが、その日は珍しく、テーブルの上にお菓子が残ったままになっていた。

妻からの助言

勤務先に退職を告げる前日の夜、おもむろに妻から言われた。

「ダメだったら帰って来ればいいからね」

僕はのめり込みやすい性格である。

単身赴任をして、仕事がうまくいかず一人で精神的に追い詰められてしまうのを心配していたのかもしれない。

転職するのは例外なく不安だ。

いま考えても、あのときの妻の言葉が僕を救ってくれたのだと思う。

僕はつくづく妻と出会えたことが幸運だと感じた。

僕は相変わらず仕事に追われ、子供たちとの時間が過ごせていなかったが、話をしてからの子供たちは毎日を元気に過ごしているようだった。

おそらく妻がフォローしてくれたのだろう。

会社からは4ヶ月に渡ってあの手この手で引き止められた。

給料を上げる。管理職のポストを用意する。いま抜けられたら困る。人助けだと思って留まってくれ・・・。

建設業では実務経験は武器になる。

実務経験を、その時に所属していた会社から提出してもらうことで、資格試験を受けることができるからだ。

僕自身も上手に辞めないと、この会社での実務経験がもらえなくなる可能性を危惧して強気にでることができなかった。

しかしながら、これから転職を考えている人がいるとしたら、このような手口で足止めをくらうのは得策ではない。

時間は有限だ。転職先の会社からみれば

「本当にあいつは当社にくる気があるのか?」

と疑われてもおかしくはない。

話し合いは平行線が続いたが、数ヶ月ののち、僕は無事退職することができた。

粘り強く話ができたのも、妻からの助言があったからこそだと思っている。

「ダメだったら帰って来ればいいからね」

やさしい。だからこそ、僕は頑張らなければいけない。


僕の決意は日毎に強く刻まれていた。


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